2022年1月30日で3年目に突入した、チョコレートブランド「ひとくちチョコレート」。無類のチョコレート好きであった荻曽友貴が、たった一人で「ブランドを作りたい」とゼロから立ち上げたものです。結果、たくさんの人の協力を得ながら、どこまでも誠実に今日まで成長を続けることができました。そんな2年間を振り返ります。
ごまにオレンジ、ピスタチオ……チョコレートと相性の良い食材の中から、さらに最適な種類、形状、加工方法を選び抜き、ひとくちチョコレートは毎月のように「これだ」という味わいの新商品を生み出しています。
「本来は、さらに食材開拓も拡大したい」
それが荻曽の想いですが、まずは今生み出しているチョコレートをひとりでも多くの人に届けること。そうすることで地盤を固め、体制の強化やコスト削減による値下げを実現することが、目下の目標だといいます。
そんな「ひとくちチョコレート」のこれまでとこれからについて、荻曽が語ります。
“48時間”で動くこと
—— ブランド立ち上げ以前は、別のお仕事に就かれていたとうかがいました。製菓に関わるお仕事でしょうか?
荻曽:いえ、それが以前は企業でマーケティングの仕事をしていました。出張で中国に渡っていて、戻ってきたのはブランドを立ち上げる前年の6月末のことです。今は「贈答品」と捉えられているような、値は張るけれどとても上質でおいしいチョコレートってありますよね。日本の人にも、そんなチョコレートを常日頃から楽しんでほしい、そんなブランドを立ち上げたいという想いは、長い間持っていたのですが。
—— 具体的には、まずその一歩として、どのように動かれたのでしょう?
荻曽:チョコレートの作り方を、習いに行くところからですね。ぼくの場合はそこからでした。ただ、習得してある程度つくれるようになったものの、結局どんなブランドをどんな形で立ち上げ、どう売っていくか……。そこがどうにも定まらず、日本に帰ってきてからの7ヶ月間、何もアウトプットをすることができずに自分の中で考え込んでしまっていたんです。
—— 製作についての知識を得て以降は、なかなかアクションを起こせずにいたんですね。
荻曽:そうなんですよ。そんなときに、ぼくの背中を押してくれたのが1冊の本でした。Googleの初代CTOが書かれた本で、そこに記してあったのが「アイデアを思いついたら、どんな形であれ48時間以内に試すべきだ」ということです。加えて、アクションしたいとき、利害関係のない人の意見は参考になるはずもなく、いちばん参考にすべきはお金を払って買ってくれたお客さまの意見だ、と。お客さまに情報をもらうべきなんだ、ということだったんです。そうでなければ、新しい道を歩けないと。その通りだと、頭と胸を打たれて。
—— とにかく試すしかない、と。
荻曽:はい。それで、動こうと。ぼくがやりたいことはシンプルに2つだけだったんです。シングルオリジン(単一の産地・生産者のみの原料を使うこと)にこだわることと、「甘すぎない」ものをつくること。ぼく自身が、甘いものは好きでも“甘すぎるもの”を苦手としていたので、そんな自分がおいしいと思えるものをつくりたかった。その2つを軸に、とにかく売り出してみたのが2020年1月30日のことでした。
「羊羹」の袋からはじまった
—— 悩まれていた販路は、どのように用意をされたのでしょうか?
荻曽:「どこで売るんだ」ということについては、とてもラッキーでした。知り合いに頼んで、会社のオフィスのコーヒーマシン横で販売させてもらえることになったんです。無人で、ただそこに置いておく。「コーヒーのお供に買ってもらえるといいな」いう本当に淡い期待からのスタートだったのですが。
—— その結果が良かった、ということですね。
荻曽:そうなんです。フルーツを混ぜたガナッシュのボンボンショコラなんかをスティック状にして販売開始してみたところ、最初は物珍しいから、という人や甘いものが特別に好きな人たちが買ってくれていました。ところが、その人たちは当然、買ったあと席に戻るんです。そうすると「こんなチョコレートが売ってたよ」という噂が広がって、結果、かなりの人数の方が買ってくださいました。
—— 味が良ければ、オフィスというコミュニティでは好意的に広まりやすいかもしれませんね。
荻曽:意外だったのは、コーヒーを飲む人がコーヒーのお供に食べてくれているとばかり思っていたら、実際は「買って帰って自宅で食べる」という人が半数もいたことです。「奥さんがチョコレート好きだから買って帰る」「今日は仕事で疲れたからご褒美として買って帰る」といった需要も多かったんですよ。
—— たくさんのチョコレートはどのように用意されていたんですか?
荻曽:すべて自分で手作りです(笑)。もちろんパッケージもなかったので、羊羹を入れるアルミ資材を購入して、それに詰めて売っていました。スティックタイプにしていたのは、ワンハンドで食べることができた方が、仕事のお供にいいかなという考えでした。結果的に、普通のチョコレートとは異なる体験をしてもらうこともできたかもしれませんね。「申し訳ないからもっと値上げしてほしい」という意見をもらったときは、本当にうれしかったですし、とても大きな自信になりました。
—— それはすごいですね。とても好調な滑り出しです。
荻曽:ですが、すぐにオフィスからは人がいなくなっていきました。コロナの影響が始まったんです。
578人からの支援
—— 販路を失うことになってしまったんですね。
荻曽:はい。他のオフィスへの展開も検討していたので本当に残念でした。しかし収束を待っていても仕方がないので、すぐにネットで販売しようと舵を切りましたね。まずは「Shopify」で販売サイトを用意して、元々買ってくれていたオフィスの方々にもまた食べていただきたかったので、公式LINEアカウントも設けました。加えて、新規のお客さまを開拓するために「Creema」でも販売を試しました。
—— いろいろと試されていったんですね。そこから勢いづいたのはクラウドファンディングでしょうか?
荻曽:そうですね。当時、クラウドファンディングがすごく盛り上がっていて「これはチャレンジした方がいいな」と思いました。「Makuake」で、チョコレート5袋のセットや10袋のセットをリターンに9月から挑戦して、すごく頑張ったんですよ。結果的に、578人の方から支援をいただくことができて、合計金額は約320万円になりました。食品で300万円を超えることは異例だそうです。
—— プラットフォームの中でも成功事例だったということですね。
荻曽:そう言っていただきましたね。そこから未だにリピートで買ってくださっているお客さまもいらっしゃるので、挑戦して本当に良かったですね。企画は続けつつ、製作は一流ホテルで腕をふるったショコラティエにお願いできるようにもなり、倉庫も借りて、そこから発送できるように徐々に体制を整えていくこともできました。
知ってもらう価値、届ける喜び
—— 2年間という期間の中でも「この判断が良かった」と思えるポイントが随所にありましたね。
荻曽:そうですね。まずはやはり第一歩を踏み出せたこと、オフィスでの販売にクラウドファンディング。どれも良い判断だったと思います。ただ現状は、買ってくださる方のおかげで、それを資金に次のことに挑戦している状況なので、当然感謝しかありませんし、より多くの方に届けられるよう拡大することが最優先ですね。
—— 現在そのために取り組まれていることをうかがえる範囲でおしえてください。
荻曽:新たに始めたこととしては昨年の10月末から、週末には青山の国連大学前で開催している「ファーマーズマーケット」に出展しています。お客さんの顔を見て販売できるのが何よりうれしいですね。直接お声をくださる方もいますし。
—— オフライン販売にもまた改めて戻ってこられた、という感じですね。
荻曽:そうですね。こういった窓口も大切にしたいと思っています。たとえば、オーガニックのごまを使った「オーガニックごまのプラリネチョコレート」は一見すると地味ですが、丁寧にご説明すると「気になる」「驚いた」と買ってくださる方がたくさんいるんですよ。今は、「不知火フルーツチョコレート」もすごく人気ですね。
—— 今後もさらなる拡大に向けて、打つ手はたくさんあるでしょうか?
荻曽:はい。他にも施策は控えているのでぜひ楽しみにしていただきたいですし、何より売る努力をしていくことで、最終的にはお客さまに還元できる、ということを考えて尽力しています。新作も喜んでいただけるものをまだまだたくさん考案中ですので、支えてもらいながら成長してきた分、応援してくださっている方にもしっかりと返していきたいですね。
(取材:中前結花)
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